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長江・三峡の危機

 美しい長江・三峡。これは8年前、私が生まれて初めて中国語も分からないまま、中国を訪れた時の写真です。私は断崖絶壁に挟まれた長江を客船で行く三峡下りのツアーに参加していました。この時、長江は豊かな水をたたえ、三峡に入れば両側に聳え立つ山々に圧倒されたものでした。しかし、8月23日付けの日経新聞はこう伝えています。「だが、水面にはまったく別の光景が広がる。発泡スチロールやビニール袋、家の柱の一部とみられる木など数多くのごみが浮遊する」
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 「最大の原因は一大国家プロジェクト、三峡ダム発電所(湖北省)の建設にある。
ダムの影響で、場所によっては水位がすでに約80メートルも上昇し、多くの街や農村が水没した。水面上のごみは水没した村などからの浮遊物。環境問題に詳しい王里奥・重慶大学教授は「長江の水の流れが遅くなり、川が本来持つ自然の浄化作用も衰えてきた」と指摘する。
 三峡ダムの影響は水質面にとどまらない。
 「もうすぐあそこまで水位が上がります」観光船のガイドが指さしたのは、水面からはるか上の地点。三峡ダムが全面完成する2009年までに水位はさらに約40メートル上昇して川幅も拡大する。「峡というより湖のようになる」ともいわれている。(日本経済新聞「中国内陸大開発の光と影~重慶の環境汚染 深刻」より抜粋)
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私がここを訪れた時も、船の船頭さんが「もうすぐあそこまで水位があがるんだ。だから私たちは引っ越さなきゃならないね」と言いながら、水面よりはるかに遠いところを指差して苦笑していたのが印象的でした。ならば、あの船頭さんだけではなく、訪れた街や村もすでに水没してしまっているのでしょうか。
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若い(10代かと思われる)お母さんに背負われたかわいい赤ちゃん(と、そのお尻)。この人は、私が船の中から「あの川辺の石を記念に欲しい」という気持ちを察して、私に拾って手渡してくれた人でした。すると彼女もあの赤ちゃんも、今ではどこかへ、恐らく近くの重慶へでも移住しているかもしれません。しかし、日経はこう続けます。
「重慶市郊外の農村に防毒マスクを付けて暮らす人たちがいる。その一人、余家燕さんは体重が5年前に比べて半減。医者からガス中毒と診断された。歩くのもやっとだが、貧しい生活を支えるため農作業に追われる毎日だ。
5年前、煙突から黒い煙を噴出すスポンジ工場が隣に進出してから体調が悪化した。周辺の5世帯30人のほぼ全員もガス中毒との診断だ。
反抗は試みた。
住民「工場を止めて」
政府「工場が一世帯当たり千元(約一万三千円)払うから文句言うな」
住民「それでは解決にならない」
政府「ならば勝手にしろ」
工場を誘致した地元の「社(村に相当)」政府幹部は、抵抗を続ける住民たちに防毒マスクを送って調停を打ち切った。
社政府の上部組織に当たる区政府は「排ガスが原因と言う証拠はない」との立場。引っ越す資金もない住民は排ガスとガス中毒の因果関係を自力で立証しなければ何の補償も得られない。重慶政府は昨年、スモッグの少ない日を増やす「青空行動」を開始。悪質な工場には操業停止など厳しい罰則も適用する。だが実際の効果は十分とは言い難い」
この他にも、工場廃水によるガンや、大気汚染による肺がんの発症など、重慶に限らず中国のいたるところでこのような現象が起きているようです。開発で生活が豊かになると夢見ながら、普通の生活すらままならない健康被害に追い込まれた人々。そして、このような大気・水質汚染によって、工場誘致を見送る海外企業までも出ている現在の中国環境の実情。急速な開発のひずみは、いつも一番弱い人々を苦しめる。日本でも、中国でも。8年前に行ったあの長江・三峡の壮大な景観も、もうすぐ永久に見られなくなってしまうと思うと残念でなりません。
そしてこの環境破壊が今後の中国の命運を左右する、非常に重大な事柄であるということ、さまざまな中国識者が指摘しているところです。

by saiko-ch | 2005-08-23 09:13 | 中国の環境危機